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名古屋地方裁判所 平成11年(レ)3号 判決 1999年12月20日

控訴人(附帯被控訴人)

石丸絵里子

被控訴人(附帯控訴人)

岩月由加里

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)の附帯控訴に基づき、原判決主文第一ないし第四項を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)に対し、金二九万七四六六円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被控訴人(附帯控訴人)のその余の請求を棄却する。

3  被控訴人(附帯控訴人)は、控訴人(附帯被控訴人)に対し、金三万円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

4  控訴人(附帯被控訴人)のその余の反訴請求を棄却する。

三  控訴につき控訴費用は控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、附帯控訴につき訴訟費用は第一、二審を通じてこれを五分し、その四を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)の負担とする。

四  この判決は、第二項1及び3に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一申立て

一  控訴人(附帯被控訴人、以下「控訴人」という。)

1  原判決中控訴人敗訴部分を取り消す。

2  被控訴人(附帯控訴人、以下「被控訴人」という。)は、控訴人に対し、原審認容金額のほか、更に金一九万四七九五円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

5  本件附帯控訴を棄却する。

二  被控訴人

1  原判決を次のとおり変更する。

(一) 控訴人は、被控訴人に対し、金四三万四三三三円及びこれに対する平成九年一月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

(二) 控訴人の反訴請求を棄却する。

2  訴訟費用は第一、二審とも控訴人の負担とする。

3  仮執行宣言

4  本件控訴を棄却する。

第二事案の概要

本件は、控訴人運転車両(以下「控訴人車」という。)と被控訴人運転車両(以下「被控訴人車」という。)が衝突した交通事故につき、被控訴人が受傷した点については自動車損害賠償保障法三条に基づき損害賠償を請求し、物的損害については双方がそれぞれ被った物的損害につき民法七〇九条に基づき損害賠償を請求した事案である。なお被控訴人は、原審においては、損害額につき、後記損害のほか中古車登録等諸費用三万二五〇〇円を主張したが、原審はその請求を認めなかった。被控訴人は当審においては、右部分につき請求の減縮をした。

一  争いのない事実

次のとおりの交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

1  日時 平成九年一月一三日午後二時四五分ころ

2  場所 愛知県刈谷市東刈谷町一丁目九番地一六先交差点(以下「本件交差点」という。)

3  控訴人車 普通乗用自動車(三河五三ゆ・八九六)

右運転者 控訴人

右所有者 同右

4  被控訴人車 普通乗用自動車(三河五一て八一〇八)

右運転者 被控訴人

右所有者 同右

5  態様 本件交差点を北に向かって直進しようとした被控訴人車と、西に向かって直進しようとした控訴人車とが衝突し、控訴人車及び被控訴人車が破損した。

二  争点

1  本件事故の態様と双方運転者の過失の有無、程度

(一) 控訴人の主張

控訴人は、本件事故現場である信号機の設置されていない本件交差点を末広町方面から松栄町方面に向けて東から西に通過しようとして、別紙交通事故現場見取図(以下「別紙図面」という。)<1>の地点で一時停止をして左右の安全を確認した。その際、左方はるか遠くから走行してくる自動車を確認したが、その前に交差点を通過できるものと思って発進し別紙図面<2>地点で再度左方を確認したところ被控訴人車が約三〇メートルの地点にまで接近していた。控訴人は、被控訴人車が交差点に到達する前にその前方を通過できるものと思い別紙図面<3>地点まで進行したところ、被控訴人が控訴人車に全く気付かない模様で時速六〇キロメートルを超える速度で走行してきたため、衝突の危険を感じ、ブレーキを踏むと共に右にハンドルを切ったが別紙図面<4>地点で衝突した。

以上から、被控訴人には前方注視義務を怠った過失及び速度違反の過失がある。これらの事情からすると、本件事故の過失割合は五対五である。

(二) 被控訴人の主張

控訴人は、本件交差点は一時停止の指定がされており被控訴人車が走行していた道路が優先道路であったにもかかわらず、交差点手前で一時停止をせず、徐行もしないで本件交差点に進入した。また、本件交差点左方の注視義務を怠った。

これに対し被控訴人は、本件事故について何らの過失が認められないし、また仮に何らかの過失が認められたとしてもその負担すべき損害の範囲は限りなく零に近いものである。

したがって、過失割合は控訴人に一〇〇パーセント、少なくとも九〇パーセントの過失が認められるべきである。

2  本件事故により被控訴人が受傷した事実

(一) 被控訴人の主張

本件事故により、被控訴人は頭部挫傷、脳しんとうの傷害を受けた。

(二) 控訴人の主張等

被控訴人は、本件事故は控訴人の一方的過失であると主張し、控訴人が被控訴人にも過失があると主張するや診察を受けたもので、被控訴人には何らの傷害も生じていない。

3  本件事故により被控訴人が被った損害

(一) 被控訴人の主張(請求の減縮後のもの)

(1) 修理費相当額 二七万七八七三円

(2) 治療費 五九六〇円

(3) 休業損害 一万〇五〇〇円

被控訴人は、クリーニングを業とする会社に勤務していたが、前記2の傷害のため三日間休業せざるを得ず、そのためその間の賃金を減額されるという不利益を被った。被控訴人の休業による損害は、時間給が七〇〇円で毎日五時間勤務をしていたから三日間で一万〇五〇〇円となる。

(4) 慰謝料 一〇万円

被控訴人は、前記2の受傷により精神的苦痛を被った。のみならず、事故後の控訴人との示談交渉において、控訴人側が誠実な対応をしないばかりか脅迫まがいの対応をするなどにより多大な精神的苦痛を被った。これらによる被控訴人の精神的苦痛に対する慰謝料は、少なくとも一〇万円を下らない。

(5) 弁護士費用 四万円

(二) 控訴人の認否

修理費相当額二七万七八七三円については不知、その余の損害については否認する。

4  本件事故により控訴人が被った損害

(一) 控訴人の主張

修理費相当額 八四万七四六三円

(二) 被控訴人の主張等

控訴人車は昭和六二年登録の自動車で、中古車売買の基準の一つの目安となるいわゆるレッドブックに記載すらされておらず、これは現実に中古車販売の対象とされていないことを意味する。したがって、本件事故当時の控訴人車の時価はほとんど無価値であったのであり、損害額としてはほとんど無価値の範囲内にとどまるものである。

三  争点に対する判断

1  争点1(本件事故の態様と双方運転者の過失の有無、程度)について

(一) 前記争いのない事実並びに証拠(甲二(ただし、後記採用しない部分を除く。)、九、控訴人本人(当審。ただし、後記採用しない部分を除く。)、被控訴人本人(当審))及び弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。

(1) 本件事故現場の概況は、別紙図面記載のとおりである。そして、本件事故現場の被控訴人車進行道路には本件交差点内においても道路中央線が引かれており右道路が優先道路であった。このほか本件事故現場の交通規制としては、信号機による交通整理は行われておらず、控訴人車、被控訴人車進行道路はいずれも最高制限速度時速四〇キロメートルの速度規制がされていた。

(2) 被控訴人は、本件事故時被控訴人車を運転して、東刈谷町二丁目方面から知立市方面に向かって本件交差点手前を先行車両と同程度の時速約四〇キロメートルから五〇キロメートルの速度で走行していた。被控訴人は、別紙図面<ア>地点より南側、時間にすると本件交差点に入る二、三秒前に別紙図面<2>地点付近にいた控訴人車を発見した。そして、被控訴人車が別紙図面<ア>地点まで進行した時控訴人車は別紙図面<3>地点まで来ていたが、被控訴人は控訴人車が止まるであろうと考えてそのまま進行した。ところが、控訴人がブレーキをかけることなく進行してきたので、被控訴人は直ちにブレーキをかけたが間に合わず、別紙図面<イ>地点で別紙図面<4>地点の控訴人車と衝突した。被控訴人は、右のとおり、控訴人車が止まると思ったのでブレーキをかけずに本件交差点を進行したが、本件交差点内の別紙図面<2>地点にいた控訴人車を発見した時点での被控訴人車は、ブレーキを踏んでいれば衝突せずに止まることができるほどの距離にある場所を走行していた。

(3) 一方、控訴人は、本件事故時控訴人車を運転して、末広町方面から松栄町方面に向かい本件交差点東側を走行し、本件交差点東側の一時停止線の手前(別紙図面<1>の地点)で一時停止をした。控訴人は、この時、本件交差点南側約三〇メートルの場所付近を走行している被控訴人車を発見したが、被控訴人車が本件交差点に進入する前に控訴人車が本件交差点を通過できるものと考え、本件交差点内に進入した。そして、別紙図面<3>地点で別紙図面<ア>地点を走行していた被控訴人車を認め、危険を感じてブレーキをかけると共にハンドルを右に切ったが間に合わず、別紙図面<4>地点で別紙図面<イ>地点の被控訴人車と衝突した。

以上のとおり認められる。

(二) これに対し控訴人は、被控訴人車は時速六〇キロメートルを超えるスピードで本件交差点に進入した旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。かえって、控訴人は当審において、控訴人自身も被控訴人車の当時の走行速度が時速五〇キロメートルくらいであったと思っている旨を供述しているのであり、他に被控訴人車が時速六〇キロメートルを超えるスピードで走行していたと認めるに足りる証拠はない。

また控訴人は、別紙図面<2>地点で再度一時停止をした旨供述し(当審)、実況見分調書(甲二)にも右供述に沿う記載がある。しかし、前記認定のとおり、控訴人は別紙図面<1>地点で一時停止をした際、本件交差点南側約三〇メートルの場所付近を走行する被控訴人車を見たことが認められるところ、右供述等によると控訴人は別紙図面<1>地点から約九・七メートル進んだ別紙図面<2>地点で再度一時停止したことになる。そうすると控訴人車が別紙図面<1>地点で一時停止をした後発進してから衝突地点である別紙図面<4>地点に至るまでに少なくとも数秒以上はかかることになり、一方本件交差点南側約三〇メートルの場所付近から時速約四〇キロメートルないし五〇キロメートルで走行してきた被控訴人車は三秒程度で衝突地点である別紙図面<イ>地点に至ることを考え合わせると、控訴人の供述等のとおりであれば本件事故が起こることが想定し得なくなる。したがって、前記認定に反する控訴人の前記供述等は採用できず、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

(三) 以上認定の事実によれば、控訴人においては、被控訴人車が走行していた道路が優先道路であったにもかかわらず、本件交差点南側約三〇メートルの場所付近を走行していた被控訴人車を見て、被控訴人車両が本件交差点に進入する前に本件交差点を通過できるものと軽信し、本件交差点に進入して優先道路通行車両である被控訴人車の通行を妨害したという重大な過失があったものというべきである。一方、被控訴人においても、自らの進行する道路が優先道路であったとはいえ、ブレーキを踏めば衝突せずに止まることができる位置で別紙図面<2>地点付近を本件交差点に進入してきた控訴人車を認めながら、その動静に対する十分な注意を怠り控訴人車は停止するものと軽信し減速する等の措置を講じずに自車を進行させた過失により本件事故を惹起したものと認められる。そして、これら右各道路の規制内容、双方の過失の内容等の事情を総合して判断すれば、本件事故に対する控訴人と被控訴人の過失割合は、控訴人が八〇パーセント、被控訴人が二〇パーセントと認めるのが相当である。

2  争点2(本件事故による被控訴人の受傷の有無)について

(一) 前記争いのない事実並びに証拠(甲四、被控訴人本人(当審))及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人が本件事故により平成九年一月一四日から三日間の経過観察を要する頭部挫傷、脳しんとう症の傷害を負ったことが認められる。

(二) この点、控訴人は、被控訴人は、本件事故は控訴人の一方的過失に基づくものであると主張し、控訴人が被控訴人にも過失があると主張するや診察を受けたもので、被控訴人には何らの傷害も生じていない旨主張し、当審においては、被控訴人が本件事故後の話合いの際には特に頭が痛いとは言っておらず、過失割合について争いになった後に突然頭が痛いと言い出して病院に行った、本件事故の二日後の実況見分の際に自宅療養ということで休業していた被控訴人が本件事故現場を見に来ていた旨供述するが、仮にこれらの事実があったとしても前記認定事実と矛盾するものとはいえず、直ちに前記認定を覆すものではなく、他に前記認定を覆すに足りる証拠はない。

3  争点3(本件事故により被控訴人が被った損害)について

(一) 修理費相当損害金 二七万七八七三円

証拠(甲三、八)によると本件事故による被控訴人車の破損についての修理費用は二七万七八七三円と見積もられ、被控訴人車の本件事故当時の時価は約四八万円であったことが認められ、これによると、本件事故による被控訴人車の破損による損害としては、修理費相当損害金二七万七八七三円を相当と認める。

(二) 治療費 五九六〇円

証拠(甲四、七、被控訴人本人(当審))によると前記認定のとおり、被控訴人は本件事故により三日間の経過観察を要する頭部挫傷、脳しんとう症の傷害を負い、平成九年一月一四日、医療法人秋田病院で治療を受け右治療に対し代金五九六〇円を支払ったことが認められる。

(三) 休業損害 一万〇五〇〇円

証拠(甲一一、被控訴人本人(当審))によると被控訴人は、本件事故当時、クリーニングを業とする会社にパートタイマーとして勤務していたが、右の受傷により三日間休業したこと、本件事故当時の被控訴人の時給は七〇〇円であり、被控訴人は当時一日あたり五時間勤務していたことが認められ、これによると、本件事故による休業損害として頭書金額が認められる。

700(円)×5(時間)×3(日間)=1万0500(円)

(四) 慰謝料 四万円

本件傷害の内容、治療の程度等を考慮すると、本件において被控訴人に慰謝料として四万円を認めるのが相当である。

(五) 以上損害額合計 三三万四三三三円

(六) 過失相殺

被控訴人にも、前記の過失が認められるので、右損害額から二〇パーセントの割合の過失相殺をするのが相当である。これによると被控訴人の右各損害に対する賠償の請求として認められるのは二六万七四六六円となる。

(七) 弁護士費用 三万円

本件認容額、事案の難易等を総合考慮すると、本件の弁護士費用としては、三万円をもって相当と認める。

(八) 結論

以上によれば、本件において被控訴人の控訴人に対する損害賠償請求の主張は、合計二九万七四六六円及びこれに対する本件事故日である平成九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

4  本件事故により控訴人が被った損害

(一) 前記争いのない事実並びに証拠(乙一、控訴人本人(当審))及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(1) 本件事故によって破損した控訴人車の修理に要する費用は、八四万七四六三円と見積もられたが、控訴人は、修理代より車両価格が少ないということで修理はしなかった。

(2) 控訴人車は昭和六二年八月に初度登録されたもので、本件事故当時既に初度登録から九年以上が経過していた。控訴人は、控訴人車を本件事故の約半年前に三〇万円前後で購入し、本件事故当時には、控訴人車を毎日運転していた。そして、本件事故当時、控訴人車に特に調子が悪いところはなく、正常に運行できていた。

以上のとおり認められる。

(二) 以上認定のとおり、控訴人は控訴人車を三〇万円前後で購入したこと、控訴人が控訴人車を購入してから本件事故まで約半年しか経過していないこと、控訴人は本件事故当時控訴人車を毎日運転していたが特に調子の悪いところはなく正常に運行できていたことを考え合わせると、控訴人車の本件事故当時の価格は、一五万円と認めるのが相当である。以上からすれば、本件事故による控訴人車の修理費用は当時の控訴人車の時価を上まわることが明らかであるから、本件事故による控訴人車の破損による損害としては、当時の控訴人車の時価相当額である一五万円と認めるのが相当である。

この点、被控訴人は、控訴人車が昭和六二年登録の自動車で、中古車売買の基準の一つの目安となるいわゆるレッドブックに記載されていないことを根拠に本件事故当時の控訴人車の時価はほとんど無価値であったと主張するが、いわゆるレッドブックが中古車市場のすべてを網羅しているというわけではなく、これに記載されていないがゆえに中古車市場で取引の対象とされていないとはいえないのであり、被控訴人の主張は前記認定に照らし採用できない。

(三) 過失相殺

控訴人には、前記のとおり過失が認められるので、右損害額から八〇パーセントの割合の過失相殺をするのが相当である。これによると控訴人の右損害に対する賠償の請求として認められるのは三万円となる。

(四) 結論

以上によれば、本件において控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求の主張は、三万円及びこれに対する本件事故日である平成九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由がある。

四  結論

よって、被控訴人の請求は、損害金二九万七四六六円及びこれに対する不法行為時である平成九年一月一三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきであり、控訴人の請求は、損害金三万円及びこれに対する不法行為時である同日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において認容すべきであるが、その余は失当として棄却すべきである。したがって、本件控訴は理由がなく、附帯控訴は一部理由があるから、本件控訴を棄却し、附帯控訴に基づき原判決主文第一ないし第四項を主文第二項1ないし4のとおり変更することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 北澤章功 榊原信次 山田裕文)

(別紙)

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